子どもの育ちに親の果たす役割は大きく,都市化,核家族化,家族形態の多様化による課題が増える中で,「家庭教育」に解決の糸口が求められる.文部科学省では,2011年に「家庭教育支援の推進に関する検討委員会」を設置し,子育てに関する親の学びの促進,親の交流・地域参画促進,親と学校との信頼の構築,地域資材の活用力向上等,様々な取り組みを行っている.
親として成長するには,「子どもと向き合う」ことが必要であり,親自身が省察的に考え,実践していくための「リフレクションを促す家族対話」が重要であるという(Thomas 1996).省察的な家族対話が親としての意識や子どもとの相互作用の変化を,さらには子育ての楽しさへの気づきをもたらし,親自身の自尊感情を高めるという.現在,親が発達し,成長していけるよう持続可能な仕組みを作ることが求められている.
本研究では,子どもと向き合い,リフレクションを促す家族対話を引き出すよう継続的に支援し,家族内において学び合い,親として成長可能な環境を構築する.それらの要件を満たすためには,ポートフォリオによる支援が適切であると考える.子どもの写真や映像,日記等,成長記録を取りためるという日常の行為を,ポートフォリオ研究の知見を適用することで,親としての発達を促す学びにつなげたいと考える.
「親性」とは,「母性と父性とを統合した性質で,親が自分の子どもを養い育てようとする性質」と定義され,大橋ら(2010)は,育児期の親性尺度を作成し,自己への認識と子どもへの認識として整理している(表1).例えば,自己への認識の「親役割の状態」では,育児をすることに喜びを感じているか,親としての充実感を感じているか,子どもへの認識では,子どもの「欲求」,「性格」,「個性」がわかるか等を尋ねている.親としての発達は,子育てスキルの獲得にとどまらず,人格的・社会的発達を含み,子どもの成長発達にともないながら変化し,家族を取り巻く社会の変化に対応しながら親役割を再形成させていくものである.親性尺度は,それらを捉えるものと考える.
佐藤らは,子どもの制作物を記録・観賞する“ツクルミュージアム”アプリを開発し(Sato et al. 2014),アプリの使用が家族対話を促し,「親性」の一部の向上に寄与することを見出している(佐藤ら 2016).そこで本研究では,支援する親の成長を「親性」として捉え,佐藤ら(2016)では支援されていない「親役割以外の状態」も支援対象にし,家族全体の記録を蓄積するファミリー・ポートフォリオ(以下FP)を構築する.
愛知淑徳大学 佐藤朝美